マリーン・キャプテン(海兵隊大尉)、ジョッシュ・ラッシングさんは、1972年7月生まれ。軍の組織の中でも精鋭部隊の「Marine=海兵隊員」として、厳しい訓練を受けた。マリーンについては「一度海兵隊員になったら、一生海兵隊員(Once a Marine, always a Marine)」といわれるほど、軍の中でも特に誇り高い組織。
広報官として、カタールのドーハにある、イラク戦争のアメリカ中央軍司令部に勤務した。誰もが、彼は順調にエリートコースを進んでいると思っていた。
しかし、ドーハに本拠を置く、あるケーブルテレビ局の記者たちとの出会いが、彼の人生を変えた。
そのケーブルTV局の名前は、アル・ジャジーラ。
現在のラッシングさんは、海兵隊を辞め、ワシントンDCで、アル・ジャジーラ英語放送の記者をしている。
米軍の兵士が一転して、アラブ世界の声を代弁し「反アメリカ報道」で知られるアル・ジャジーラに「寝返り」をした。彼の転身は、「現代のトウキョウ・ローズ」とか、「アメリカン・ブーブ(アメリカの恥部)」などと、米メインストリーム・メディアに強く揶揄された。
テディはこれまでも何度かジョッシュのことを、ここやあっちに書いてきた。
ーーー日本のTV局向けに、ジョッシュ・ラッシングさんの単独インタビューを行うことになった。交渉に交渉を重ねて、厳しいアル・ジャジーラ側の取材スクリーニングを勝ち抜き、きょうを迎えられてうれしい。以下がその要旨。
Q 米中央軍司令部の広報官をしていたときに、疑問を感じたことがあったか?
A 中東で影響力の大きいアル・ジャジーラにどこまで取材許可を与えるかについて、上官からいつもネガティブな答えをもらっていた。自分の中では、アル・ジャジーラには最大限アメリカ軍を取材させるべき、と思っていたのに。
Q その中央軍司令部時代に、広報官としてアルジャジーラに接し、彼らの報道姿勢をどのように感じた?
A アメリカ人の大半は、その放送内容を見たことも無いのに、アル・ジャジーラにネガティブなイメージを持っていた。自分も全く同じ偏見を持っていた。記者たちに実際に会ったとき、しかし、もっと彼らの放送内容について、知りたいと思った。
Qアメリカのメディアがプロパガンダだ、と感じたことはあるか?
A もちろん。正しい質問をしていない、といつも思っていた。軍の取材をするアメリカメディアの中には、生中継の事前に「きょうは何か伝えたいメッセージはありますか」と、聞く記者がいるんだ。それで、自分が「こういうことを伝えたい」というと、そういうメディアの記者は「わかりました。じゃあこういう質問をしますから、言いたいように答えてください」などと言う。つまり、インタビューのやらせ、だね。そして中継が終わったら、そういう記者は自分の肩をポン、と叩いて「サンキュー・フォー・ユア・サービス(国のために尽くしてくれてありがとう)」などという言うんだ。なぜなら、軍の制服を着た若者をTVで見たときに、視聴者が批判的になるはずがない、と思っているんだぜ。
Q アルジャジーラに転身しようと決めた直接のきっかけは?
A 2003年の7月に、カタールから帰ってきた。2004年2月、海兵隊のロスの事務所で、ハリウッド向けの撮影窓口広報をしていたとき、ある日留守電にこんなメッセージが入っていた。
「 I just want to say thanks for the movie, I saw it at Sundance, the film festival. 」
一体何のことだか、全くわからなかった。しかし、自分とアルジャジーラを題材にしたドキュメンタリー映画が、カタールに駐留していた時に、いつの間にか作られていたことが分かった。アメリカン大学の大学院の学生が、課題を撮りに来た、と行っていたが、それが、いつの間にかドキュメンタリー映画になっていたのだ。
これが、海兵隊を辞めるきっかけになった。映画に出たことで、「アルジャジーラについて講演をしてくれ」という依頼が沢山舞い込むようになったのに、軍隊側が「軍に在籍しながら、アル・ジャジーラについて講演をしてはならない」と伝えてきたからだ。
Q メディアへの転職、しかしなぜ、アルジャジーラでなければならなかったの?
A チャンスが転がってきたから。アル・ジャジーラから連絡があって「英語チャンネルを開局するから、やってみないか」と言われて、パーフェクト・フィットだと思った。 なぜなら、自分がこれまで説いてきた「もっとアル・ジャジーラに、アメリカ人が出演しなければならない」 ということを、実践できるんだからね。
Q イラク戦争では、アメリカ政府高官は、アルジャジーラは偏向しており、暴力をあおっていると批判した。そうした政府高官の批判をどう受け止める?
A アメリカでは、沢山の人が、アル・ジャジーラについて、強い意見を持っているけれど、実際の放送を見たことのある人は、ほんの一握りしかいない。こういうのを「教科書しか読んでいない無知」というんだね。
アメリカメディアは、戦争を間違って伝えている。従軍記者の伝える、アメリカ軍の目線をそのまま垂れ流すんだ。それ以外の目線での報道をすると、アメリカ人たちをびっくりさせてしまうのさ。
こんなたとえがある。「CNNはミサイル発射を報道し、アルジャジーラは、ミサイル投下を報道する」。全く反対方向の、ものの見方だよね。
でも、多くのジャジーラ批判報道は、根も葉もないうそ。たとえばラムズフェルド国防長官(当時)は、「アル・ジャジーラは米兵の斬首を報道している」と批判したけれど、本当のところは、ジャジーラは、一度も斬首を放映したことは、ないんだ。これからもする予定はないよ。
Q ジャジーラ英語放送で、どんな番組を作りたいか?
A アメリカ人に、アメリカ以外の国の文化を理解させるような番組を作りたい。それに多分、アメリカ人の価値観を 世界に広めることも、出来る。アメリカと、アメリカ以外の国の文化の架け橋になりたいんだ。アル・ジャジーラの編成部長は「the America isn’t good understanding the rest of the world, the rest of the world isn’t good at understanding America.」と言っている。
Q アメリカの軍人、海兵隊員が、今度は、アルジャジーラの一員となった。これからのあなたの使命は?
A アメリカ市民である自分と、海兵隊員であった過去と、現在の仕事には、何ら対立するものはないよ。自分がこうしてアル・ジャジーラに就職したことも、誇りに思っている。英語国際放送で、もっとも信頼されるニュースソースになること、これが我々の使命だと思っている。
Q 記者として、インタビューしてみたい人を3人挙げると、誰?
A キューバのフィデル・カストロ大統領、オサマ・ビン・ラディン、ドナルド・ラムズフェルド国防長官(当時)かな。
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近頃の若い人には珍しい、一本筋の通った、ジョッシュのインタビューにほれぼれ、感動した。
180度「生きる道」を転換して、なおかつ使命感に満ちている、そんなラッシング記者は、やはり「ワンス・ア・マリーン、オールウェイズ・マリーン」だ、と言いながら、インタビューの場所を後にした。
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(参考)
彼のウェブサイト
USAトゥデー紙の記事
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