朝4時に起きて、5時に某牛肉工場を訪問。だだっぴろい大地にぽつねんと建った工場が、朝日を浴びながらもう稼働を始めている。
今回の取材の内容は、日本向けの牛肉輸出停止を受けた、工場側の反応。この工場は日本が主な輸出先であるから、こんなロケ内容を想定してやってきた。
「危険部位(せきずい)除去の工程の撮影、Jスタンプの押された牛肉が出荷されないで置き去りにされているところの撮影、Jスタンプそのものの撮影、担当者のインタビュー」
もちろん以上の希望項目は、先方も了解している。しかし、もうひとつどうしても撮りたくて、了解をもらえていないのが
「アメリカ農務省、USDAのお肉検査官が検査をしている風景」
特に今回の日本側の輸入禁止措置は、成田国際空港で、日本に輸出してはいけない危険部位の混入した状態の加工肉が見つかったことに端を発している。しかしその肉を見逃したのは、USDAがその工場に派遣しているお肉検査官だったというから大変。もともとアメリカの工場には、工場が雇った品質管理責任者と、USDAのお肉検査官がペアになって品質、製品管理をしているというのに、肝心のお役所が派遣した検査官がこんなていたらくでは、日本という大事なお得意先にもそっぽを向かれてしまうというものだ。そこでそれをこっそり撮影するというミッションを帯びているのだが、どうなることやら。
さて、全身に白衣、髪にも紙の帽子をかぶって、靴もビニールで覆い完全防備の状態で食肉加工工場の中へ潜入!むあっとするなま肉のかおりと、マイナスに保たれた工場内の温度が不快な場所。そして一歩足を踏み出して、ぬるっとする感触に目をやると、工場の床は、血まみれ内蔵まみれ、スプラッターなのである。(お食事中の皆さんすいません)もちろん洗剤液でコンスタントに清掃をするのだが、それが追いつかないくらい床には血が流れている。
意を決して血だまりをよけよけ工場内を進むと、想像を絶するような映像が繰り広げられていた。一言で言うと、「死にたての牛が、生皮をはがされた状態で血をたらしながら天井から逆さ吊りされたライン」が少しずつ動いていて、各工程に待ち構えている担当者が、首やら、内蔵やら、脊髄やらを切り取り「加工」していくのである。。うーむ。動物愛護団体でなくても、これを見たら一気に食欲がなくなるはず。。
しかしここで後ろを向いては女がすたる。カメラマンとともに、順番に項目を撮影していく。しかし順調そうに見えた撮影も、途中でトラブル発生!Jスタンプや輸出し損ねた日本向け商品などの倉庫は難なく撮影できたものの、先方が脊髄除去の現場の撮影を、どたんばで渋りだしたのだ。担当の副社長をなだめえたりすかしたり。それでもだめなら、と、ワシントンのオフィスから別のプロデューサーに社長あてに直接電話をしてもらったり。交渉の末ようやく撮影許可がおりる。しずしずと先ほどのなま肉の間を進む。
「こっちこっち、こちらが脊髄除去の現場ですよ。どうぞ。」
途中、文字通り天井から吊るされて毎秒10cmくらいずつ前進しているなま肉のラインの、牛と牛の間を通り抜けるように言われた。足元は血だまり。しかもそのラインの次の工程では、牛の首をかっ切って、のどから反芻中の干し草や消化液やらが「どぼどぼっ」と落ちてくるという恐ろしい光景が繰り広げられていた。しかし進まねばならぬ。しかし、躊躇していたときに、目の前でラインを前進する牛と、目が合ったような気がした。怖いのでおそるおそる歩いていると、私が歩く速度が遅すぎたのか、ライン上のなま牛の巨体にどつかれる。「あ!」(どすん。)まるで牛が生きているかのようだ。。
持っていった鞄(しかも牛革のかばんでした。。)に血がべとっとついてしまい、使い物にならなくなった。。とほほ。
そして問題の農務省の検査官が働いているのを発見。ヘルメットに「USDA」と書いてあるのだ。カメラマンにこっそり撮ってもらい、私は別の方向を向く。こうすることによって、どこを撮っているのか、わからなくするという戦法である。しかし甘かった。
「テディ、USDAの検査官がこちらをにらんでるよ」とカメラマン。「見ないふり、見ないふり」と私。
知ーらないっと。こういうばたばたした現場では「撮ったものが勝ち」なのでさりげなくカメラに映像を収めて、次の工程へ。何とかばれずにすんだようだ。
昼食はなんと従業員の方に混じって、工場の食堂で自分で肉をはさむ、手作りハンバーガーなど。もちろん工場直送の「フレッシュ牛肉」。しかも肩の部分の珍しいお肉なんだとか。朝5時からロケしているので、おなかがすいており、先ほど見た血まみれ工場のインパクトも忘れかぶりつく。。ああ自分の食欲と鈍感さが憎い。。。
余談だが、この工場では通常の牛は特殊な弾丸?のようなもので撃つことで殺しているとか。しかし、ムスリムの方々用の肉は「首をかき切り血を出し切ることで失血死させる特殊な殺し方をするためとても残酷。」なんだとか。考えるだけで嫌な気分になるが、この工場、日本への輸出再開のめどが立たない中で、他の国のお客さんを模索せざるをえない状況に陥っているのだ。この日もエジプトからの買い付け業者が見学に訪れていた。「きょうはこれからムスリムの人用に100匹を殺すんだ。動物が苦しむ様子を見ると思うと、気が重い。」とはこの工場の副社長の弁。
波瀾万丈の牛肉工場ロケだった。
働いていた人々に少々肥満が多かったことも気になったし、エジプトのお客さんも気になった。しかし一番は、血まみれ・低温の場所で早朝から働いている人(しかも多くがメキシコから来た低賃金の労働者たち)がいるからこそ、われわれがおいしく食べられるお肉が世間に流通するんだ、という社会勉強になった、ということ。
インタビューでは「アメリカ産牛肉は安全です!一人の検査員の間違いが原因で、輸入が停止して悲しい。われわれの牛肉工場の厳重な管理体制を見てもらえれば、信頼してもらえるはず」と力説する工場側の担当者が印象的だった。日本人には想像を絶するスケールの大きさで牛肉の加工・流通が行われているのだ、ということへの理解が深まった一日。しかしそのアメリカ産牛肉のスケールメリットが、食に神経質な日本人にどこまで伝わるかが今後の課題なのであろう。。
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